製品開発支援システムの仕組み - PLMシステムの費用対効果

「PLMシステムの費用対効果がわかりにくい」とよく言われます。その理由は明確で、PLMシステムを部品表(BOM)管理やCADデータ管理といった管理のツールに使っているからにほかなりません。
PLMシステムは、設計業務プロセスを効率化することで初めて効果を生むことが出来ますが、データを管理するだけでは多くの場合投資に見合った効果を出すことができません。
先の634活動の例にしても、設計データを管理する仕掛けだけでは期間の短縮もコストの削減もできません。
確かに設計に必要な情報をデータベースに一元管理することで、必要な時に必要な情報を取り出せることが出来るようになり検索のスピードや情報の共有化を実現することが出来ますが、これで効率化できるのは個人の作業効率がアップするという点だけです。
製 品開発業務では、企画段階で商品戦略を立案し、それを具体化する設計フェーズで実現プランを詳細化し、その製品を作るための部品や材料を選定・調達した り、製造コストをさげ且つ、高品質を実現するための製造方法の検討までの一連のプロセスを、設計データは受け渡されていきこれらのプロセスを効率化して初 めて期間短縮やコスト削減及び品質向上といった目標値の達成することが出来ます。
一部門だけの効率化は往々にして他部門にしわ寄せが行ってしまい、全体効率という点では結果として効果が出ないということが良くあります。
では、このような特徴を持つ設計プロセスで、何をすれば効率化が図れるのでしょうか?
一つの例を使って説明してみたいと思います。(わかりやすくするため登場人物は簡略化しています。)
たとえば製品を量産するまでに関係する部門が設計部、購買部及び生産技術部が関係してきます。
それぞれの部門でかかる期間を設計部は50日、購買部が15日、生産技術部が35日の計100日で設計を行うとします。
そこで設計部門だけを対象に期間半減プロジェクトを立ち上げ、設計部門は目標の50%を達成し25日を達成できても量産開始までのスループットで見ると25日(設計)+15日(購買)+35日(生産技術)=75日(25%)しか達成できていません。
また部門をまたいで作業進めることにより、作業の手戻りなどが発生するため、プロダクトライフサイクルに渡る作業効率も考慮する必要があります。
このように一部の部門だけを効率化しても製品開発業務の効率化には大きなインパクトを与えることが出来ないことがわかります。
部門をまたいだ業務プロセスの代表例は設計変更管理業務です。
設計変更管理業務を効率化することで業務の手戻りを大幅に削減することが可能です。
注意する点は、設計変更回数の削減を目標にしてもすることは逆効果となります。
製品開発業務では、設計変更を繰り返すことで不具合を撲滅していくとともに、コスト低減や効率的なモノづくりを実現しているからです。
特にすり合わせを得意とする日本のモノづくりでは、丁寧な設計変更の繰り返しを実施することで、海外の企業に負けないモノづくり力を維持してきました。ただし人間系で。
PLMシステムの成功事例の多くは、PLMシステムを設計業務プロセスを構築するツールとして使うことで、設計内容が70%の完成度でも情報を共有し、他部門からのフィードバックを多く受け短期間に完成度を高めるプロセスを確立しています。
特に設計変更業務プロセスに対して手間をかけることなく、変更点・変化点を関係部門間で共有できるようになると、作業の手戻りが最小限に抑えられかつ、設計変更によるレビューを重ねつつトもータルの期間を短縮することが出来ます。
PLMシステムを使って設計変更による手戻り作業を削減し、設計期間を短縮することが出来ると、この結果は品質の向上につながってきます。
一 連の設計成果物を他部門の作業に渡すとき、前工程作業が行った変更点・変化点をわかりやすくすることで後工程における作業の間違いが少なくなり、また変更 による影響範囲を簡単に分析することが出来ることで余計な作業工数の発生を抑えることが出来ます。また、後工程から受けたフィードバックによる影響範囲を 簡単に把握できるようにすることは、将来発生するであろう後工程視点での潜在的な不具合をあらかじめ設計段階でつぶしておくことを可能とします。
コ スト削減についても同様で、製品設計にかかわる多くの部門を巻き込んだ情報共有環境を実現することで、有利な部品調達や効率的なモノづくりの検討が行える だけでなく、マーケティングや販売戦略を並行して実施できるようにすることで、期間短縮や品質向上により製品開発原価を低減するとともに、効果的なプロ モーション活動による売り上げ及びシェアを向上させることで、結果的にコスト削減目標を達成することが可能となります。
製造業の設計者だけでなくどの産業においても、知的労働者の行動パターン振る舞いは、一つ作業時間が短縮できてもその短縮した時間を使ってより良いものの検討を始めてしまうという行動をとります。
納期内で時間が余ってしまうと、多くの作業者はより詳細の検討を始めてしまいます。
これによりより高品質なものを実現出来ますが、目標とした期間短縮を実現出来ていません。
知的労働者の作業を終わらせるのは納期しかありません。
ただし、納期があまり短すぎると検討がおろそかになってしまって逆効果です。
設計業務を効率化するには適切な設計作業時間を管理しつつ、無駄な作業をできるだけ省くとともに必要なデータを簡単に見つけるような環境を構築していく必要があります。
「期間短縮を実現すると品質がおろそかになる」、「品質を向上させるとコストがアップする」、「コストを削減すると品質向上と期間短縮が実現できない」、製品開発業務の改善はこのような相反する条件を解決する必要があります。
この問題を解決するためのキーワードが「つなげる」、「しらせる」、「みつける」という仕掛けです

-久次 昌彦-

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